1. 入札は最大でも3社までにする
店舗開発担当者としては、「多くの見積もりを比較検討すればするほど、より安い価格で店舗作りができる」と考え、ついつい多くの業者に声をかけてしまいたくなるものです。しかし、多くの見積を取ることが必ずしも見積金額が安くなるという結果につながるわけではありません。
1-1 入札社数を必要以上に増やしすぎた
「参加社数が多いほど競争原理が働いて、価格を下げられるだろう。」と考え、毎回5社6社で相見積りを行っているが、価格が安くなっていない。
店舗開発の立場からしたら、競争原理が働くから入札社数は多ければ多いと考えがちです。実は多ければ見積もりの入札価格が下がるわけではなく、高い見積もりが出てくる可能性のほうが高いのです。
施工会社は見積金額を下げるために、不要な工事が発生するリスクを考慮して、図面や現場状況を分析したり、各専門業者に見積もり金額を下げるように交渉したりとかなりの工数をかけています。
内装業者の立場からすると、入札参加社数が増えれば増えるほど、実際に発注してもらえる確率はどんどん低くなります。低い確率のために、同じだけ労力をかけられるかと言われたら答えは明確です。また、専門業者へ交渉をしておいて、依頼できませんでしたということが、何度も続けば今後のお付き合いにも支障が出かねません。
ただ、比較・競争させるというのは当然利点があるので、比較検討すること自体はおすすめです。店舗開発担当者は信頼できる2-3社に絞って依頼するのがベストです。
1-2 将来的な価格の高騰を予測できなかった
人材不足・資材価格高騰だから数年前と同じものを作っても高くなるのは仕方ないと考えてしまった。
当然人材不足や資材価格の高騰によって施工価格が年々上昇しているのも事実です。しかし実は、入札参加社数を必要以上に増やすことも施工価格の上昇に大きく影響しています。
見積りを作成するために内装業者には経費が発生します。1件あたりの入札参加社数が増えれば増えるほど、依頼を請けなかった会社には空経費が発生します。ビジネスですから施工会社も、その発生した経費はどこかで回収しなければ会社は赤字となってしまいます。業界全体で5社の入札が続くとすると、単純に考えれば仕事は5回に1回もらえる計算になり、請けれなかった4回分の経費はその1回分で回収するしかないのです。それは結果として、最終的に費用を支払う施主が見えない形ですべて負担することになるのです。金額を下げようとして入札社数を増やすことで、結果的に業界全体として施工価格が上がってしまうという負の連鎖が発生しているのです。
まとめ
- 過多な入札社数では見積金額は下がらない
- 入札は信頼できる2-3社に絞って依頼するのがベスト
施工会社の立場でみると、競合が多すぎたり無茶な案件には「取れたらラッキー」くらいの気持ちになってしまうもの。業者が本気で取り組みたくなる発注条件を心がけましょう。
2. 無謀なスケジュールは組まない
店舗開発担当者は新規出店の際は、賃料発生のタイミングや繁忙期への対応を考えて、オープン日までのスケジュールはできるだけ急ぎたいものです。しかし、無謀なスケジュールを組むことによって生じるデメリットはメリット以上に大きくなりえるでしょう。オープンまで時間ないからと様々な条件が業者側に有利に話が進んでしまうことになりかねません。
オープンすることを最優先にして他の部分を妥協するのではなく、納得のある店舗作りをするために余裕のあるスケジュールを組みましょう。
2-1 業者が見つからなかった
厳しいスケジュールを業者側に提示してしまったため、依頼を受けてくれる会社がなかなか見つからなかった。余計に時間がかかったことで、結果的にオープン日も遅らすことになってしまった。
スケジュールに余裕がなければ、依頼を受けてくれる会社の数は当然少なくなります。そのため、業者に依頼しようとしても断られる確率が高まり、業者を探すのに必要以上に時間がかかってしまいます。また、人気のある会社は、早いうちからスケジュールが埋まってしまうことが多いのです。したがって、厳しいスケジュールに対応できる会社に質の高い会社はほとんど残っていないのです。
店舗開発担当者は自社がかける時間や業者の質のことも考慮してスケジュールを決める必要があるでしょう。
2-2 見積もりが普段より高かった
急遽出店がきまったため、普段の半分の期間で見積提出を依頼した。いざ、提出された見積を確認すると、普段以上に高い金額だった。
見積の算出は、必要工事の確認や現調などの様々な作業の積み重ねからできています。スケジュールを短くしてしまうことで、そのステップを省略してしまうと見積金額が高くなる要因となります。
施工会社は各工事項目の見積を各種専門業者に依頼します。このため、見積の期間が十分に与えられないと、施工会社は専門業者からの見積があがってくる前に、自社の過去のデータを元にした概算見積を自社の見積として提出することになります。施工会社は専門業者からあがってくる見積で、自社が損をしないように多少高く見積をを出さなければならないのです。
ここで費用を削減することで、他の部分に予算を回すことも可能となります。余計な費用がかからないように、見積の期間は十分取るようにしましょう。
2-3 納得感を得られなかった
デザインに納得していないけど、オープン日に間に合わなくなってしまうから、諦めることにした。オープンした後にも、機能面で足りていないところが次々と出てきた。
どんなに素晴らしいデザイナーであったとしても、一番最初の提案で施主の要望が100%叶えられているプランができあがることはありません。プランの中から改善点を洗い出し、再度修正ということを繰り返していくのです。特に機能面は後から要望としてあがることも多いので、この期間にしっかり詰めていく必要があるでしょう。
店舗開発担当者は修正期間を十分にとってお互いに納得感を得てプロジェクトを進めていきましょう。また、打ち合わせの場以外でも質問を随時していくことで、短い時間でより質の高い提案をすることにつながるでしょう。
まとめ
- 無謀なスケジュールは人的にも業者側にもコストがかかる
- 無理のないスケジュールは納得感のある店舗作りにつながる
スケジュールに余裕があれば当たり前に出来るはずのことも、時間がなければできないもの。不必要に多く支払ったり、低品質になることを避けるためにも、余裕を持って発注しましょう。
3. 大事な条件は文章に残して確認する
店舗開発に限らず、あらゆる取引で条件を事前に確定させることはとても重要です。店舗開発ともなると決めなければない事項が多く、お互いの認識を一致させることは想像以上の体力と時間を要します。特に新規の業者に依頼するのであれば尚更です。依頼時の条件は施主にも施工会社にも非常に大切なことです。もしかすると慎重になりすぎるくらいでもいいのかもしれません。
「自分たちは大丈夫」と自社の常識にとらわれてしまい、意外と多くの人が見落とす点は実に多くあります。細かい部分ではありますが、ここでしっかりおさえておきましょう。
3-1 税別と税込
税込の金額だと思い込んで話を進めていたら、いざ請求書を発行したら、実は税別だった。
施主側は税込だと思っていたのにいざ支払いとなったら税別だった。実はこの話よくあります。日常生活の買い物でも支払いの際に税込表示を見て驚くことがあると思いますが、今回は店舗開発です。お金の桁も違いますので、単純に忘れてたではすまされないのではないでしょうか。
予算内におさめたいのはみなさん同じはずです。口頭での話は水掛け論になりがちです。面倒臭がらず、しっかり文章に残すことで事前に問題を防ぎましょう。
3-2 支払い条件
長年付き合っていた会社との間での支払い条件が【竣工後100%】であったため、会社としても前金を払うことに慣れていなかった。そのため、契約時に揉める原因となった。
何店舗も出店していくと様々なことが当たり前になってしまい、自社のケースが一般的なものだと思い込んでしまいます。しかし、実際には自社の例は特殊で、業界では当たり前ではない場合も大いにありえるでしょう。各会社によって望むものが違うため、それにしたがって支払い条件が異なることも少なくありません。
デリケートなお金の問題だからこそ、最初にきちんと明確にしておきましょう。
3-3 スケジュール期限
最初「急いでいない。11月中には」と業者側に伝えていた。自分は「11月中旬」の意味だったが、業者側は「11月末まで」と捉えていた。結局業者に急なスケジュールの変更をしてもらうことに。
日本語はとても曖昧な言語なのでこういう相互理解の差はとても生まれやすいです。業者がそれに対応できればまだ良いですが、業者側が全ての急な変更に対応できるとは限りません。業者は様々なプロジェクトを同時並行して進めているため、工期が重なってきてしまったら、最悪の場合受注することができないということにもなりかねません。そうなると施主側は一から業者を探さなければならず、お互いにとっても非常に損になることは容易におわかりいただけると思います。
店舗開発においてスケジュールがずれて、見込み売上が立たなくなることは致命的な事象となりかねません。言葉の雰囲気に惑わされず、常に確認するようにしましょう。
まとめ
- 口頭のみの確認は後々予期せぬトラブルにつながりかねない
- 重要なことこそ文章で残して、両者の認識を一致させて未然に問題を防ぐ
少しの認識のズレでも、店舗開発のように大きな金額が動くものの場合そこでの損失は想像以上に大きくなってしまいます。しっかりと文面に残し、トラブルを未然に防ぎましょう。
4. 事前に必要な情報を可能な限り準備する
店舗デザインを依頼するうえで、予算・ターゲット・商品種類といった事前情報をあらかじめ用意しておくことは非常に大切です。店舗デザインは一見センスが全てなように感じられがちですが、実際には与えられた情報を整理することがとても大切になります。商品数が違うだけで、全く別の空間が生まれることもあるのです。例えば、一点もののセレクトショップとファストファッションの店では内装が全く異なることがわかるでしょう。
一見小さく見えるような情報であっても店舗デザインという点においては、実はとても大きな情報となります。よりスピーディーに的を得た提案をしてもらうために、依頼内容は事前に細かく設定しておきましょう。
では、事前情報が十分にない場合どのようなことが起こりうるのか見ていきましょう。
4-1 コンペの際に選ぶ軸がバラバラで選べなかった
予算をしっかり伝えずにコンペをしたら、一番金額の高い会社の提案が一番良かった。予算も大事だけど、デザインも大事。結局何を決め手にしていいのかわからない。
コンペをする際は事前情報を揃えて、条件を統一することは必須です。事前情報がきちんと揃っていなければ、提案される内容もバラバラとなってしまいます。ほとんどのプランは一長一短があるため、定まっていない部分が多いと、プランを選ぶのに苦慮することになるでしょう。そして、一番ここで陥りやすい罠が予算の安い方を選んでしまうことです。必ずしも「安かろう、悪かろう」という訳ではありませんが、それではコンペする意味はあまりないのでしょうか。
またデザイナーにとっても自分が考えなければならない範囲が広くなり、頭を悩ませる事になるため、あまり好まれないでしょう。
どの軸で依頼する会社を決めるのかということを事前に定め、それ以外の部分はできるだけ統一するようにしましょう。
4-2 スケジュールが余計にかかった
優秀なデザイナーだったので、信頼してあまり希望を伝えずにデザインを依頼した。いざ、プランがあがってみたら自分の期待したものではなく、再度一から提案してしまうことになってしまった。
どんなに優秀なデザイナーであっても施主が事前情報の設定を疎かにすれば提案内容が的外れということも十分ありえます。最悪の場合、再度一からイメージを作成しなければならないため、余計に時間や費用がかかってしまうということもありえます。
自社の店舗なのですから、デザイナーに任せっきりにするのではなく、必要な情報はできるだけ詳しく伝えるようにしましょう。
まとめ
- たとえ小さな情報でも提案するデザインは大きく異なる
- デザイナーに任せきりにせずに、必要な項目や要望は事前にしっかり用意して伝える
店舗デザインとは、細かな情報を整理整頓して店舗という形にするプロセスのこと。材料である情報を与えずに「おまかせします」では、自社にベストな提案は生まれません。
5. 社内でプロジェクトを共有する仕組みを作る
店舗の新規出店やリニューアルは社内の誰もが嬉しいし、わくわくしますよね。それは経営者も同じはずです。一回一回の打ち合わせには出ないけど、最後のプレゼンには社長が参加するようにしている会社も多いのではないでしょうか。関わる人が増えれば、それだけ情報共有も難しくなり、疎かにしてしまいがちです。しかし、担当者が単独でプロジェクトを進めてしまうと、後々問題が起きやすくなります。
ここではデメリットとともに情報共有の大切さを考えていきましょう。
5-1 決済者と内容を相談してなかった
提案されていたプランは自分ではとても気に入っていたが、最後の社長プレゼンで今までの案が全てひっくり返されてしまった。まったく別の提案をしなければならなくなり、設計者から追加で設計料を請求され、さらにはスケジュールにも遅れが生じた。
社長などの決済者はなかなか現場の打ち合わせに出てこないので、店舗開発が企画や打ち合わせを担当することが多いと思います。しかし、進行中の企画や内容を決済者と密に相談しておかないと、後々トラブルになりかねません。順調に進んでいたプロジェクトが決済者に対するプレゼンで「イメージと違う」の一言でひっくり返ってしまうというのは頻繁に起きる話です。
プランが一からやり直しともなれば、当初のオープン日に間に合わなくなりますし、その分業者側の工数もかかるので、追加で費用が発生してしまうということもありえます。オープンが遅れることで見込み売上があがらなくなることは、施主からしたら大きな痛手となるでしょう。
決済者に対して意見を求めることは、少し手間に感じてしまうかもしれません。しかし、小さな手間を避けて大きなリスクを負うのではなく、最初の段階で、一つ一つ小さな手間をかけていくことが、結果的にスムーズにプロジェクトを進めることになるのです。
5-2 社内での共有を怠った
初めて上長が出席する打ち合わせだったが、事前に内容を共有していなかったため、プロジェクトの内容や資料を確認しておらず、打ち合わせが思うように進まなかった。
依頼してから新規出店までの期間に限られた回数しか打ち合わせはできません。打ち合わせの目的や内容が共有できていなければ、打ち合わせが無駄な時間になりかねません。
店舗の出店は非常にスピーディーな対応が求めれられます。事前に送られてきた情報や資料はあらかじめ社内に共有するようにしましょう。
まとめ
- 担当者一人では重大な失敗につながりかねない
- 社内共有を徹底した店舗開発が成功につながる
数ヶ月かかったプロジェクトが共有不足でやり直しに。なんて例がよくあります。最終的に OK を出すのは誰かを予めはっきりさせ、進捗があれば細かく共有しましょう。
6. 利害関係のない第三者から紹介を受ける
新規出店をする際に、知人・友人や不動産・デベロッパーなどから設計・施工会社の紹介を受けることは多いのではないのでしょうか。他者からの紹介だとある程度信頼できる会社なのかと思いますが、実際に紹介を受けた際には以下の様な落とし穴があることをはじめに認識しておきましょう。
6-1 知人の会社だから強く言えなかった
知人つながりの会社だから安心だと考え依頼をしてみたら、うまくイメージにはまってこないし、価格も本当に正当なのかはいまいちわからない。でも、知人の面子もあるし今更断れない。他と比較検討もできず、納得感の薄いまま完成してしまった。
知人やお世話になっている方からの紹介はもちろん安心感という面では非常に価値があります。しかし、紹介された会社の質に悩むケースは多くあります。実際、正当な価格なのか、本当に良い提案なのかというのはなかなか判断が難いのも事実です。内装工事は、大きな金額がかかるものですから、納得感を本当に持って完成を迎えられるかどうかがとても大事になります。紹介された会社に依頼を検討するとしても、他社を比較してみることも重要になってきます。
6-2 不動産の紹介会社からの見積が高かった
実績もありそうなので、不動産会社がおすすめしてくれた会社に依頼した。後から、裏で手数料を支払わされていることを知った…
不動産会社から紹介を受けている内装会社の多くは5〜10%の紹介料を不動産会社に支払っているケースがほとんどです。不動産会社は物件自体の仲介手数料に加え、顧客の入り口を抑えているので、紹介手数料を内装会社からもとっているんです。これは純粋に施主にはわからない形で俗に言う「上に乗る」形で見積りの各工事項目に分散して計上されます。この内装会社から不動産会社に渡る紹介料も施主が余分に負担することになっているんです。
知っていれば避けられることではありますが、知らない人が多いのも事実です。紹介を受ける場合は利害関係のない第三者のサービスを利用するようにしましょう。
まとめ
- 知人や不動産からの紹介はデメリットが多く存在する
- 内装会社は利害関係のない第三者に紹介してもらうのがベスト
食べログや価格 .com のようなまとめサイトがなく、比較がしづらい内装会社。その会社が本当に良いのか、自社に合っているのかが分からず進め失敗する例もあります。
7. 金額だけで判断して依頼会社を決定しない
店舗開発には大きな金額が動きますから、比較の際に金額が重視されるのは当然です。しかし、ついつい金額ばかりを見てしまい、金額以外の判断軸を意識しないまま依頼先決定をしてしてしまうこともあるでしょう。しかし、安い見積もりには必ず理由があり、なぜ安いのかを判明させることはとても大事なことです。自社努力で成り立っているのか、あるいは単に質が悪いだけなのか。今後パートナーとして、お付き合いをするという点でもあらかじめ判明させておきましょう。
ここでは、金額だけで判断してしまった場合の失敗例を見ていきましょう。
7-1 アフターフォローが全く無かった
契約前から工事完了までの対応もそれなりによく、内装もイメージ通り完成。でも運営していく中で出てきた導線の問題や故障の時に、連絡してもまったく対応してくれない。
店舗は数年運営していくものです。最初のうちは仕上がりに満足していたとしても、オペレーションや故障・修繕などの問題が、多かれ少なかれ必ず発生します。アフターフォローは利幅が小さいため、対応してくれない会社も一部あります。
店舗を運営している間、長く付き合っていくことになりますので、その場の対応だけではなく、メンテンナンスなどのフォロー体制も依頼先を決まる際の基準にすると良いでしょう。
7-2 施工会社が頓挫した
初めての会社だったけど、安かったし人当たりも良かったから試しに依頼してみたら、引渡し予定日に工事は半分も終わってないし、現場を残したまま頓挫してしまった。
施工会社が工期中に頓挫してしまうというようなケースがしばしば起こります。施工会社の中には銀行からの借り入れで工事代金が入るまでを繋いでいるような資金体力のない会社も存在します。そのような会社の場合、職人への支払いが滞っている場合などがあり、職人さん達がボイコットしてしまうということがあります。最悪の場合、施工会社自体が倒産してしまう場合もありえるでしょう。事前に、過去に不渡りがなかったか。取引先はどこかなをど調べ、考慮にいれるべきでしょう。
7-3 オープン後に欠陥工事が見つかった
数ヶ月して点検のために壁をあけたら、表面的に見えなかった部分が設計図通りに作られておらず、かなりの手抜き工事が見つかった。
壁や天井の中は表面的には見えず、何か起きないかぎり発覚することはないので厄介です。しかし、こういった会社もあるのが事実。あまりにも金額が安い場合には、それがなぜ安いのかという理由をしっかりと検討し、必要であれば施工会社に確認するとよいでしょう。
まとめ
- 安い見積の金額には必ず理由が存在する
- 自社で見積が精査出来ない場合は見積内容を専門家に相談しよう
出店のための見積もり金額は、今後そのお店が 5 年10年と続く中でのイニシャルコストでしかありません。長い目で本当に適正なのはどの会社なのかをしっかりと見極めましょう。
8. 見た目だけではなく機能性も考慮する
店舗をオープンするときはどうしてもデザインやレイアウトに注目してしまい、オープンしてからオペレーションの悪さに気付く店舗開発担当者は少なくありません。仮に最初から気をつけていたとしても、実際にお客さんが入ると当初の計画通りにいかないことも多々あります。オペレーションに配慮した店舗をつくるために、何が足りなかったのかを見ていきましょう。
8-1 導線について考えられていなかった
提案内容をとても気に入り、コストにも満足。しかし、いざオープンしてみると必要機材の置き場所が無かったり、スタッフやお客さんの導線が悪かったりと、効率が非常に悪い店舗になってしまった。
提案内容と見積金額を精査するクライアントは多いですが、意外と見落としがちなのが「必要機材の置き場所」や「導線設計」といった項目です。特に飲食店やサロンなど、スタッフとお客さんの移動が激しい業種・業態では、工事にとりかかる前に「誰がどのように動くのか、その際に支障はないか」といったオペレーションが非常に重要になってきます。シミュレーションを入念に行い、必要であれば模型をつくってもらい、より実際のイメージに近づけるようにしましょう。
8-2 デザイナーや施工会社に同業種の経験がなかった
飲食店を改装するにあたり、既存概念にとらわれないデザインにしたかったので、ほとんどの事例がアパレルの会社に依頼した。今までにない斬新なお店になったが、オープン後に水漏れが発生したり、換気が上手くできないなど設備面で様々な問題が発生してしまった。
飲食店や美容室はアパレルなどの物販店などと比べ、空調・水道・電気などの設備工事が多く、専門知識を必要とします。そのため同業種の経験が無い会社に設計を依頼するとオペレーションに大きく支障をきたすことがあります。
一方で異業種を中心に手がけている会社に依頼することで、新鮮なアイデアが出てくることもあります。異業種を中心に手がけているデザイン会社に依頼する際は、施工会社を同業種の経験が豊富な施工会社にするなど、何かしらの対処をしておくことが大切です。
まとめ
- 設計施工会社には得意な業種業態をはじめとした特徴がある
- 業種業態の経験を考慮して設計施工会社に依頼しよう
業種業態によってその工事の専門性も大きく異なります。価格・デザイン性・専門性などを総合的に考慮し自社の出店に最適な内装会社はどこなのかを見極めなければなりません。
9. 使用する素材はしっかり確認する
店舗の新規出店や改装をする際にデザインを紙で確認しただけで、GOサインを出している店舗開発の担当者の方も多いのではないでしょうか。そこで見逃しがちなのが壁紙や床材、家具など店舗に使用される素材の確認です。ここでは「目での確認」と「入手経路の確認」の2点を怠ってしまったゆえに起きたトラブルをご紹介します。
9-1 紙に印刷されたものと目で見るものの印象は違う
紙で見ると「白い壁」でしかなかったものが、いざ出来上がってみると「漆喰風」の壁紙が使用されており、イタリアンなのになぜか和の雰囲気になってしまった。
プレゼンテーション時にはとても魅力的に見えたプランが、実際に完成してみると「思っていたのと違う」というのはよくあることです。たとえ事前に3Dパースで確認していても、印刷した紙媒体で見るのと実際に目にするのにはどうしても差が出てくるものです。また、「高級感」といった言葉にも注意が必要です。当然人によってそういった感覚は違いますので、完成した際に思ったより安っぽいということにもなりかねません。
こうした認識のズレを無くすためにも、店舗に使用する壁紙や床などの素材はできるかぎり事前にサンプル等で手触りや色味を確認するようにしましょう。また大量に作成する家具や什器などはスケジュールに余裕があれば、一度サンプル作成を工場に依頼して出来上がりを確認してから発注するとより一層安心です。
9-2 入手困難な素材を選んでいる
石や岩を多く使用したデザインを採用していた某外資系アパレルブランド。しかし、本国から輸入する素材だったため、天候の都合により運送スケジュールが大幅に狂ってしまった。そのため、既に告知していたオープン日をずらさなくてはならないことに。
海外から輸入する素材や、国内であっても特殊な加工を必要とする素材を使用する場合は注意が必要です。運搬距離や加工工程が大きくなればなるほど、スケジュール通りにいかないかない可能性が高まります。デザインの都合上、こういった素材を使用したい場合はあらかじめスケジュールに余裕をもっておくようにしましょう。
まとめ
- 紙で見た感覚と実際の仕上がりの感覚は異なることが多い
- 使用する素材は実際に取り寄せて確認するほうが良い
内装業者とショールームにいき肌触りや雰囲気を確認したりも重要です。また、そういった確認を怠らない内装業者のほうが品質高く仕事をしてくれる傾向にもあります。
10. 工期中は現場と密にコミュニケーションを取る
着工したら、あとはデザイナーや施工会社に任せきりになっていませんか?もちろん彼らはプロですが、現場に一度も行けないことへのデメリットは思っている以上に多くあります。
とはいえ、毎回確認に行くのは不可能という方のために「店舗開発の担当者が現場に行けないときに気をつけた方がいいこと」を含めてご紹介します。
10-1 勝手に仕様変更されてしまう
オープン日が迫っていたため、「詳細は現場で詰めます」というデザイナーの言葉を信じて任せた。施工方法の決定などは現場で職人と話し合いながら進めてくれて助かったが、意匠部分まで勝手に変更してしまい、一部工事でやり直しをすることになってしまった。
数店舗を同時に進行させたり、他の業務と掛け持ちをしている方が多い店舗開発を担当している方にとっては「毎回現場に出向いていられない」というのが本音でしょう。そういった場合は「情報を共有するための仕組みを作っておく」と同時に、「任せる人への権限を明確にする」ことが重要です。
上記の例であればデザイナーに「施工方法の選定は一任するが、見た目に関わる意匠部分をプランから変更する際は必ず連絡する」というルールを予め設定しておくなど、「何を任せ、何を相談してほしいのか」を明確にしておきましょう。
10-2 現場の管理が甘くなる
標準デザインに基づいてどの店舗も同じ仕様で作ったにも関わらず、忙しくて一度も訪問できなかった地方店舗の仕上がりが悪くて驚いた。
職人たちにとって、施主が現場を見に来ることは良い緊張感に繋がります。もちろん来ないからといって手を抜くというわけでは決してありませんが、自分が訪問できないような地方に現場がある場合は、なるべく各専門業者とのつながりが深い地場の施工会社に発注するようにしましょう。
一番避けたいのは東京を本拠にしている施工会社に発注し、その施工会社が地方の地場の施工会社に発注するという2次受け構造をつくることです。この場合、1社介することにより発注金額が上がるにも関わらず、管理体制が甘くなり情報伝達が遅れるという事態になりかねません。
まとめ
- 工期中のトラブルは多数発生してくる
- 依頼して竣工を待つのではなく、引き渡しがまでは責任を持つ
工事が始まったからといって安心ではありません。完璧に図面通りのものが出来上がらないこともあれば、そもそも図面が現場にそっていないことも。現地でしっかりと確認しましょう。
11. おわりに
いかがでしたでしょうか?
今まで自分が正しいと思っていたことで、実は損をしていたケースもあったのではないでしょうか。
店舗開発は非常に大きな金額が動くので、一度の失敗が大きな損失につながることにもなりかねません。
ここで店舗開発成功のための手法を再度確認しておきましょう。
- 入札は最大でも3社までにする
- 無謀なスケジュールは組まない
- 大事な条件は文章に残して確認する
- 事前に必要な情報を可能な限り準備する
- 社内でプロジェクトを共有する仕組みを作る
- 利害関係のない第三者から紹介を受ける
- 金額だけで判断して依頼会社を決定しない
- 見た目だけではなく機能性も考慮する
- 使用する素材はしっかり確認する
- 工期中は現場と密にコミュニケーションを取る
本書を読んで、設計会社や施工会社の事情を理解して、店舗開発の手法を見直すきっかけになっていれば幸いです。
ぜひ、しっかりと失敗への対策を打ち、誰もが納得感のある店舗づくりを実現させてください。